選手とスポンサー契約
1 はじめに
テニスの錦織選手が,今年の全仏オープン3回戦でラケットを破壊し,巨額の違約金を支払うことになるというニュースが流れました。錦織選手はスポーツ用品メーカーのウィルソンと生涯スポンサー契約を結んでおり,ラケットの破壊行為により巨額の違約金を支払うと報道されていました。
2020年にオリンピック・パラリンピックが開催されることから,テレビCMなどで多くのスポーツ選手が登場するようになっています。テレビCMにスポーツ選手が出ているのもスポンサー契約に伴うものが多いですが,スポンサー契約と一口にいっても,企業がリーグや球団などに協賛する場合もあれば,選手個人に対して協賛する場合もあります。本稿では,選手個人についてのスポンサー契約を中心に概説します。
2 スポーツ選手とスポンサー契約
選手個人について企業がスポンサーとなる場合,選手は企業から金銭や用具の供給などのサポートを受け,これに対し,選手は企業の広告に出演することを契約したり(広告出演契約),協賛企業の商品(ラケットやスパイクなど)を使用し宣伝することを契約したり(アドバイザリー契約)します。選手の肖像を利用し商品化したりすることもあります。
また,テレビを見ていると個人競技のスポーツ選手のプロフィールなどに〇〇(企業名)所属と表示されていることがあります。一見するとスポーツ選手がこの企業で働いているように思えますが,そうではなく,企業との間で所属選手契約を結んでいるのです。所属選手契約では,このように大会に出場する場合,企業のロゴを付けたユニフォームを着用したり,名前が掲載されるときに〇〇(企業名)所属と表示されたりすることで,企業は自社の宣伝効果を得ることができます。この所属選手契約もスポンサー契約の一種とされています。ちなみに錦織選手の所属は日清食品ホールディングスで,2020年末まで所属契約が,更新されています。
このようにスポンサー企業が選手の著名性を商品の保証や広告宣伝に用いることをエンドースメントということがあります。
3 アドバイザリー契約
錦織選手の例のように,スポーツ用品メーカーは有名な選手に自社製品を使用してもらうことで,宣伝効果を狙います。自分の好きな選手が使っているのと同じモデルのスパイクだとかラケットだとかでスポーツ用品を購入された経験のある方も少なからずいるでしょう。選手は用品を大会で使用するだけでなく,プロモーション活動に協力する義務や,その用品についてアドバイスをする義務が伴う場合もあります。
一方で,スポーツ用品メーカーは選手に自社製品を無償で提供し,加えてスポンサー料を選手に提供する場合もあります。
このように,企業は選手の人気を利用し製品の宣伝につなげることから,選手はただ試合に勝てればよいわけではなく,選手のもつイメージやキャラクターも重要となってきます。試合に勝てるだけでなく,人柄もよい選手の方が商品のイメージアップにつながるでしょう(逆に選手のイメージダウンは企業のイメージダウンにつながりかねません)。このようなことから,アドバイザリー契約には,企業のブランドイメージを損ねないようにする義務が定められたり,選手が不祥事を起こしたときは契約を解除したり,違約金を支払ったりする旨の定めが置かれます。今回の錦織選手のニュースはこの点に関係していると考えられます。
4 所属クラブとの関係
個人競技の選手だけでなく,チームスポーツの場合でも,個々の選手にスポンサーがつくことはよくあります。所属球団やクラブにもスポンサーがついており,チームとして義務を負っていることがあるため,個々の選手のスポンサー契約と内容がバッティングすることがあります。
スポーツ選手が広告に出演する場合,選手の肖像権(勝手に自分を撮影されない権利と著名人が有する顧客吸引力のある経済的利益のこと)が利用されます。日本の場合,選手の肖像権は所属球団やクラブが管理していることが多いです(プロ野球統一契約書16条,日本サッカー協会選手契約書8条,日本バスケットボール協会選手統一契約書8条など)。そのため,選手は広告出演契約を結ぶ前に所属クラブに許可を得ることになっています。一方,アメリカやヨーロッパでは選手やマネジメント会社など選手側が管理する場合が多いようです。
5 出場大会や所属協会との関係
オリンピック・パラリンピックでは「商業的なものであれ、その他の性質のものであれ、 オリンピック競技大会ではいかなる広告、プロパガンダも身体、競技ウエア、アクセサリーに表示してはならない」とされるなど(オリンピック憲章規則50付属細則),出場する大会ごとにルールが決まっていることもあります。個々の契約において,所属するチームや大会などのルールとバッティングしないように確認する必要があります。
今年の5月6日,7日に日本で3回目のボルダリングワールドカップが行われました。この大会で日本代表選手の一部は「KEEP OWN SPONSORES for PRO activity」の文字が書かれたシールをユニフォームに貼っていました。協会が2017年度からの国際大会での個人スポンサーロゴ掲出禁止と個人スポンサーによる選手の肖像利用禁止に対し意見を表明したもののようです。この協会と選手のスポンサーを巡る問題は,選手個人のスポンサーと協会等のルールのバッティングの例といえます。特にマイナースポーツでは個人スポンサーの支援は重要であるため,このようなバッティングは深刻な問題を含んでいます。
6 おわりに
以上,選手個人についてのスポンサー契約を中心に最近のニュースを交え概説しました。2020年にオリンピック・パラリンピックが東京で開催されることから,日々スポーツニュースを目にしますが,このような観点から見るといつもと違った見方ができるでしょう。
以 上
執筆:長谷川俊明法律事務所 弁護士 中山 創