1 霞ヶ関カンツリークラブの騒動について
 平成29年3月20日,東京オリンピックのゴルフの会場予定地である霞ヶ関カンツリークラブ(CC)が,正会員を男性に限定していたクラブの細則を変更し,女性を正会員とすることを認めることを決めました。霞ヶ関CCについては,今年に入ってから,東京都知事の小池百合子氏が,女性を正会員として受け容れていないことを批判したことなどが発端となり,国際オリンピック委員会(IOC)がその改善を求めるなどの騒動に発展していました。これは,
・2014年にIOC総会で採択された「アジェンダ2020」の提言11において,男女平等の推進が掲げられていること
・オリンピック憲章(2014年版)の「オリンピズムの根本原則」6項において,性別等いかなる種類の差別も禁止されていること
・同憲章2条7項の「IOCの使命と役割」において,「男女平等の原則を実践するため,あらゆるレベルと組織において,スポーツにおける女性の地位向上を奨励し支援する」 と定められていること
等を背景として,女性の正会員を認めていないことがIOCの精神に反する等として批判を受けたのでした。これを受け,霞ヶ関CCは長年の慣行を変更したのでした。

2 ゴルフの歴史と女性の入会制限
(1) ゴルフは14世紀発祥のスポーツとされますが,女性禁制の社交の場として発展してきたという歴史がありました。そのため,設立の古い,いわゆる名門と言われるゴルフ場であればあるほど,女性禁制の伝統を継承していることが多く,90年弱の歴史を誇る霞ヶ関CCもその一つであったといえるでしょう。
(2) そもそもゴルフクラブは私的な団体なのだから,団体内部の事項として会員資格を自由に決めても問題はないのではないかという意見もあると思います。
確かに,私的な団体の内部関係の事項については,私的自治の原則が広く適用され,誰を会員にするかは団体の裁量権に属する事項であるとも言えます。しかし,今日,ゴルフは,特定の愛好家のみが嗜むものではなく,多くの国民が楽しむレジャーの一つとなっていること等からすると,ゴルフクラブが一定の社会性を持った団体であることは否定できません。従って,どのような者を会員とするかということについて,ゴルフクラブは一定の裁量権を有してはいるもののその裁量は無制限ではないと考えるべきでしょう。過去には,国籍を理由としてゴルフクラブへの入会を拒否したことが裁量を逸脱しており,憲法14条の趣旨に照らし違法とされた裁判例も存在します(東京地裁平成7年3月23日判決・判例タイムズ874・298)。
女性の入会制限についても,今日では女性がゴルフをプレイすることは何ら珍しいことではなく,また,会員を男性に限定する合理的な理由があるともあまり考えられません。加えて,我が国のスポーツ関係の法律等に目を向けると,スポーツ基本法2条では,同法の基本理念として「スポーツは,スポーツを行う者に対し,不当に差別的取扱いをせず,…」と定められています。また,男女共同参画社会基本法13条に基づいて策定されている男女共同参画基本計画(第3次)では,「生涯にわたるスポーツ活動の推進」に関し,施策の基本的方向として「女性のスポーツ参加を促進するための環境整備を行う」こと,具体的施策として「地域において,男女を問わずスポーツに親しむことができる環境整備を行う」ことなどが掲げられています。これらのことなどからすると,女性の入会拒否を正当化するのは難しいのではないでしょうか。
なお,海外では,女性に対する入会制限を設けていたゴルフ場に,近年変化の兆しが多く見られています。2012年,毎年マスターズを開催しているオーガスタ・ナショナルゴルフ・クラブ(米国)が,2014年,ゴルフの聖地といわれるセントアンドルーズを拠点とするロイヤル・アンド・エンシェント・クラブ(英国)が,それぞれ,女性会員を受け容れることを決定しました。
(3) 増して,霞ヶ関CCの場合は,単純にゴルフクラブの裁量が問題になっていたわけではなく,オリンピック会場予定地であるという事情がありました。上記のとおり,オリンピックでは,アジェンダ2020やオリンピック憲章等において,男女平等の実現が強く叫ばれています。これらに照らすと,霞ヶ関CCとしては,少なくとも会場予定地である以上,女性会員の受け容れを拒み続けることは事実上不可能に近かったのではないかと思われます。

3 スポーツ界の発展のために
 ゴルフ以外の競技に目を向けると,従前,競技者の大半が男性であった種目についても近年は女性プレーヤが増え,また,サッカー女子ワールドカップ等のように女子の大会が世間の注目を集めることも増えてきました。このように女性が新しい分野に進出したり,新しい局面で活躍したりすると,ゴルフ会員資格の制限の話のように,昔から慣習として行われていた男女の取扱の違いが問題として露呈することもあると思われます。しかし,慣習にとらわれることなく,状況に応じて取扱の違いを撤廃する等,柔軟な対応を行っていくことが,当該競技の発展,ひいては,スポーツ界全体の盛り上がりにも繋がると思われます。

執筆:フェニックス法律事務所  弁護士 山田尚史