2019年禁止表M2.2の日本語訳の変更-禁止表M2.2の改訂履歴の検証 その3-
昨年、禁止表国際基準M2.2の改訂履歴を検証した上で、TUEの取得が必要な静脈注射の範囲や点滴の静脈注射ができる医療機関の範囲についての注意喚起を行いました。
点滴の静脈注射ができる医療機関とは? -禁止表M2.2の改訂履歴の検証-
TUEの取得が必要な静脈注射とは?-禁止表M2.2の改訂履歴の検証 その2-
その後、2018年12月7日、日本アンチ・ドーピング機構は、2019年禁止表国際基準を公開し、その中で2019年禁止表国際基準M2.2の日本語訳を、以下のように変更しました。なお、英文に変更はありません。
2018年版禁止表国際基準 | 2019年版禁止表国際基準 |
Intravenous infusions and/or injections of more than a total of 100 mL per 12 hour period except for those legitimately received in the course of hospital treatments, surgical procedures or clinical diagnostic investigations. 静脈内注入および/または静脈注射で、12時間あたり計100mLを超える場合は禁止される。但し、入院、外科手術、または臨床検査のそれぞれの過程において正当に受ける場合は除く。 |
Intravenous infusions and/or injections of more than a total of 100 mL per 12 hour period except for those legitimately received in the course of hospital treatments, surgical procedures or clinical diagnostic investigations. 静脈内注入および/又は静脈注射で、12時間あたり計100mLを超える場合は禁止される。但し、入院設備を有する医療機関での治療およびその受診過程、外科手術、又は臨床検査のそれぞれの過程において正当に受ける場合は除く。 |
筆者も、上記の2019年版禁止表国際基準M2.2の日本語訳は、英文の文言やWADAが公表している「TUE Physician Guidelines Medical Information to Support the Decisions of TUECs Intravenous Infusions」の内容に整合する日本語訳だと考えます。
過去の記事で述べたとおり、これまで、日本のスポーツ界の現場では、「病床の有無にかかわらず医師による正当な静脈注射であればTUEの取得は不要」という誤解が広まっていたと思われます。今後は、この新しい日本語訳に基づいて、禁止表国際基準M2.2の正しい理解(※)が広がることを期待しています。
※「静脈注射(12時間あたり計100mLを超えるもの)が、入院施設のない医療機関による場合は、それが医師による治療行為としての静脈注射であるとしても、TUEの取得は必要です。
競技者が、医師の静脈注射を受ける際には、正しい理解(※)を前提とした対応をとり、誤解によるアンチ・ドーピング規則違反が発生しないよう留意していただければと思います。
執筆:虎ノ門協同法律事務所 弁護士 多賀 啓、Field-R法律事務所 弁護士 杉山翔一