斉藤仁先生の教え
今年1月20日、ロサンゼルス五輪、ソウル五輪と柔道95㎏超級で2回連続優勝した国士舘大学体育学部教授斉藤仁先生が亡くなられた。昨年3月国士舘大学大学院法学研究科主催で「スポーツにおける真の勝利とは−スポーツ基本法の意義を活かすために」をテーマとしてシンポジウムを開催した際にシンポジストとして斉藤仁先生をお招きしたのだが、そのときにすでに病魔に襲われていたことを後で知って心の痛む思いをした。
シンポジウムで、先生は自らの柔道指導経験を披露された。会場から「だいぶ指導方法が変わったのではないか」という質問が出され、その質問に対して先生は「部員の気づきを大切にするようになった」と強調され、「選手が自ら考え、工夫をして、スポーツに取り組む、指導者はそのサポートをするのが役目だ」とも話された。
その先生の指導を受けた学生は、学業にも真摯に取り組んでいる。私のゼミに斉藤先生の教えを受けた柔道部員がいる。ゼミで「スポーツ部活動中の体罰問題」について議論、検討したときに16人のゼミ生中14人が「ある程度の体罰はやむを得ない」、「精神的に強くなることができる」等々の理由をつけて体罰を容認していた。しかし、柔道部とラグビー部の学生だけが「体罰をして強くなることはない、スポーツ指導に体罰は必要ない」と論陣を張った。1年間かけてスポーツ部活動と体罰について研究を行ったが、最後に柔道部の学生が「体罰の歴史、体罰と法律問題、体罰判例、なぜ体罰は必要ないか」について詳細なレジュメを作り、発表した。彼の終始一貫した体罰否定の論調はゼミ生を動かし、ゼミ全体として「スポーツ部活動指導に体罰は必要ない。科学的な指導方法を模索すべきだ」という結論に達していった。斉藤先生の教えを正確に把握し、自らの思想として「柔道の本質」を身につけてきた柔道部員は、今年度、学年トップの成績を修め学業成績優秀者として表彰される。斉藤先生の座右の銘である「剛毅木訥」を受け継ぐ学生が法学部にいることを、3月15日の「お別れの会」で報告してきた。
入澤 充