商業主義化を批判されてきたIOC(国際オリンピック委員会)は、アンチ・ドーピングとともに、いまスポーツの信頼を回復すべくインテグリティ(誠実さ)確保が課題となっている。
国際メディアはIOCが4月に、スポーツの不正な賭けに絡んだ八百長対策で「内部通報制度」のホットラインを設置し、国際刑事警察機構(ICPO)とも提携する、と報道した。IOCのバッハ会長は「究極の目標はクリーンな選手を守り、公平な大会を開催することだ」【ロンドン共同:2015.04.14】と説明したという。

国際スポーツイベントは政治と向き合う時代を迎えている。もとより肥大化した国際イベントたる五輪は国家の保証がなければ招致さえできない。日本では5年後に2020東京五輪・パラリンピックが開催される。国際イベントの開催国日本の危機管理は、(1)治安・国際テロ対策(2)新感染症のパンデミック防止(3)地震災害・放射能汚染対策である。特別措置法案が審議中でオリンピック担当相を文部科学大臣の兼任から専任とし、閣僚を一人増やして19人にする。各省庁の縦割り行政を横断的に統一するスポーツ庁も秋までには設置されるだろう。

ところで主会場となる新「国立競技場」の建設費は、概算1625億円から大幅に増えることは確実であり、毎年支出される多額の維持管理費も必要である。そこで、「国立競技場」建替の財源確保へ、施行済のスポーツくじ法改正というシステムを使うことになる。先例となるのが、2012年7月27日から8月12日まで英国で開催された、ロンドン五輪だ。最終的に概算3000億円以上の資金が集まり、スタジアム建設費やパラリンピックの運営費などに充てたという。

しかし、英国と日本はギャンブルの歴史が違う。イギリス人は勝負を予想する賭事(BET)が好きな国民性だ。1795年ニューマーケット競馬場で馬券販売から始まったブックメーカーをイギリス政府は公認し、長い歴史を経て、今、全世界に広がっている。2013年5月、英国ウエンブリーサッカー場で観戦したとき、フェンスにブックメーカーのキラキラ輝く電子広告が次々流れていたのを思い出す。英国のシステムにより何でもかんでも公認の賭けの対象にできる時代が到来している。

新聞は「プロ野球版TOTO」超党派議連で導入案浮上【朝日新聞デジタル:2015年4月15日】と報道する。「スポーツ議員連盟」がプロジェクトチームを設置して議論を始め、TOTO(サッカーくじ)は平成26年度、1107億円を売り上げて153億円をスポーツ施設の改修費用などにあてており、参加議員は「野球も販売すれば、売り上げ増につながる」と語ったという。

TOTO活用の積極的な推進論は「合法くじを導入し、警察も介入することで、逆に非合法賭博の排除が期待できる。TOTO売り上げでスポーツ施設が建設されるなど地域還元され、将来のプロ野球選手を育てる先行投資にもなる。」との言い分である。

暴力団など反社会的勢力がハンデを設定する不正行為は賭博罪や詐欺罪の対象となる。公営競技たる合法賭博だけでなく、平成22年に相撲界で野球賭博が発覚するなど、プロ野球が賭博対象になっていると言われ、昭和44年の「黒い霧事件」などスポーツファンまでが熱くなる違法ギャンブルはボクシング・野球・相撲など過去暴力団による八百長関与が話題となってきた。

当然ながら、公営競技(競馬・競輪・競艇・オートレース)やJリーグなど合法的な賭博の対象となる競技は競馬法・自転車競技法・小型自動車競走法・モーターボート競走法・スポーツ振興投票実施法に基づき八百長などの不正行為には刑事罰が下され、違反選手は出場停止や選手資格の剥奪など処罰される。

しかし、インテグリティ(誠実さ)を確保すべく、プロ・アマを問わずスポーツ界から組織犯罪としての不正や腐敗を撲滅しようとする法リスク管理の視点からは、TOTO対象となるプロ野球が追加されることは、若い選手が反社会勢力に取り込まれる不正の温床を生み出し、司法による取締りの争点が増えてくると言えよう。

弁護士 菅原哲朗