先日都内でプロ野球の12球団監督会議が開かれ,試合時間の短縮等の議論がなされたようだ。この監督会議,およそ9年振りの開催とのことで,それだけでも話題性があったのだが,この会議の中で私が注目したのは,「本塁上でのクロスプレーの禁止」に向けた議論があったことである。

そもそも,プロ野球において,明確に本塁上でのクロスプレーを禁止する規定はない。明らかなラフプレーに対しては,審判が判断し,守備妨害が認められる場合があるが,それも審判の裁量に委ねられている。このたびの監督会議では,本塁上での危険なクロスプレーについて,明確な規定を持つべきだ,ということが議論されたようだ。日本野球機構(NPB)もルール化に向けて動いているということで,プロ野球選手会もルール化に賛同する方針のようだ。

本塁上のクロスプレーについて,長らくルール化がなされなかった理由として,クロスプレーは,アウトかセーフかの判定がきわどく,ダイナミックなプレーがなされる場面の一つともいえるため,これをルール化することは,野球の臨場感を損なわせるものである,と考えられてきたことによる。しかし,シーズン中,本塁上のクロスプレーで,明らかにアウトのタイミングで,捕手の落球を誘おうとして,タックルをする場面に何度か出くわす。今季でも,外国人選手が捕手に体当たりをし,あわや乱闘騒ぎにもなるゲームもあった。

また,3年前の18U世界野球選手権で,2次ラウンド最終戦,日本-米国戦において,日本の捕手に対し,アメリカの選手が,二度も本塁上のクロスプレーでタックルをすることがあった(結局このタックルで日本は逆転を許してしまう)。この試合で,日本代表チームの監督は「ルールを作ってくれないと,あれでは死んでしまう」と苦言を呈しているように,本塁上の危険なクロスプレーは,身体に危険を及ぼす行為である。現に,本塁上の危険なクロスプレーによって,捕手が脳震盪になったり,足を負傷したりしている。

脳震盪に関しては,アメフト(特にNFL)では研究やルール化が進み,厳格な脳震盪プロトコルが採用されている。脳震盪プロトコルでは,脳震盪がリスクのあるものであることが確認され,脳震盪が生じた場合には,脳震盪プロトコルに従った復帰を経なければならない定めがあり,違反には厳しい罰則(罰金)が課せられている。野球においても,本塁上の危険なクロスプレーにより脳震盪が発生する危険があることに鑑み,選手の身体の安全を守る観点から,本塁上の危険なクロスプレーについてルール化して,予防することが必要である。

ダイナミックなプレーを好むアメリカでも,MLBが昨年より捕手の本塁ブロックを禁止する規定が盛り込まれた。また,日本でもアマチュア野球や高校野球においても,捕手の立ち位置について明確な規定を置き,本塁上の危険なクロスプレーを防止しようとする動きがみられる。

NPBでも早急に本塁上のクロスプレーに関しルール作りに努めて貰いたい。野球観戦者としては,選手の怪我が心配だし,プレー以外の乱闘は見たくないのが本音である。

弁護士 安藤尚徳